十六夜月のラブレター
「あの、私、明日のプレゼンの配布資料のUSB失くしちゃったんです」

「え!? どういうこと?」

明らかに入谷さんの顔色が変わった。今まで見た事のない緊迫感のあるものに。

「デスクの上に置いておいたはずなのに昼休憩から戻ったら失くなってたんです。しっかり管理しておかなかった私の責任です」

「マジか……」

入谷さんが細くて長い指で口を押さえるが動揺は隠せていない。

「あのっ、もう一度プレゼンのデータ貰えませんか? そしたら私今から会社に戻って作るので」

「それがさ、プレゼンの資料、あのUSBにしか保存してないんだ」

「えっ!?」

「まさかなくなるとは思ってなかったから」

「そうですよね、本当にごめんなさい」

「いや、ちゃんとバックアップ取ってなかった俺が悪い。心配しないで。もう一度作り直すから」

「でも!」

「今から徹夜すればできると思う」

「それなら私も手伝わせてください! プレゼン内容は書けないけれど、レイアウトとかデータ入力とか、表とかグラフ作ったりとかならできますから!」

「いいの? それやってもらえるとかなり助かる」

「だって私のせいですから。私ができることはなんでもやらせてください!」

「ありがとう。じゃあ俺の部屋来て。今からすぐに取り掛かろう」

「はい!」

入谷さんの部屋に入り通されたリビングは、ワンルームの私の部屋がすっぽり入りそうなくらい広くてお洒落だった。

天井から幾つものペンダントライトが吊り下げられ、ブラインドが下ろされた窓の前には大きな観葉植物が置かれている。

広いから気にはならないけれどまだ大阪から引っ越してきたばかりだからか、段ボール箱が山のように積み上げられていた。
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