十六夜月のラブレター
驚いた私を入谷さんがいつものいたずらっ子のように笑って見ている。

「私、入谷さんのこと、無自覚イケメンだと思ってました」

「あはは。無自覚どころか超自覚してわざとやってたんだけど」

「えっ?」

「俺はぐいぐい取り囲んでくる君達じゃなくて、深沢さんに興味があるよって」

そうだった。入谷さんは雪見に興味があるんだった。

でもさっき、私のこと月見ちゃんて言ったような?

「それにさ、俺が嫌われてるからかもよ?」

「入谷さんが? そんなわけ……」

「だって俺、将来有望なしごできエリート営業部員だよ? 先輩、同期、後輩。みんな表面では笑い合ってるけど裏では誰にやっかまれてるかわからない。実際本社にいた時も何度も嫌がらせされてるし」

「そうなんだ……」

「望むならUSBの犯人捜ししてもいいけど。どうする?」

私はすぐに大きく首を横に振った。

「いいです。たとえ誰かの仕業とわかったとしても気まずいだけだから」

「うん、賛成。だけどたしかに俺達が会ってることはもう会社の人に知られない方がいいね。今夜のことも二人だけの秘密にしよう」

「はい」

「遅くまで俺のためにがんばってくれてありがとう。あとは何も心配しなくていいから。安心して眠って」

そう言って入谷さんはまた頭をぽんぽんしてくれた。

あ、そうだ、昨日のこと謝らなきゃ。

そう思いつつも頭をぽんぽんされる心地好さと安心して眠ってという言葉で一気にそれまでの緊張感から解放された私は、耐えてきた睡魔に急に襲われて目を閉じてしまった。
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