十六夜月のラブレター
パチパチとノートパソコンのキーボードを叩く音で目が覚める。

そこは入谷さんの部屋のリビングのソファーの上だった。

昨日と同じ服を着たままの私の身体の上に毛布がかけられている。

「あ、目が醒めた?」

「私、寝ちゃってたんですね」

「家まで送っていくつもりだったけど、ここでそのまま寝てもらった方が良さそうだったから」

時計を見ると朝の5時だ。

「ずっとやってみえたんですか?」

「少し仮眠したけどね。よし! できた!」

「お疲れさまです! 私、今から会社行って冊子にしますね!」

「ダメダメ。昨日と同じ服じゃ怪しまれるよ」

「そうだった……」

「あとは俺がやるから。一旦家に帰ってから普通に出社してくれればいいよ。今タクシー呼ぶね」

「電車で帰るから大丈夫です! 本当にいろいろすみませんでした!」

一礼したあと鞄を持って部屋を出ていこうとすると、不意に後ろから入谷さんに片腕を掴まれた。

「あのさ、このプレゼンうまくいったら二人で打ち上げしよ」

「はい!」

私は自分でも驚くくらい素直に笑顔で返事をしていた。

いつも不愛想な私の笑顔が余程珍しかったのか、入谷さんは少し意外そうな顔をしたあと満面の笑みを返してくれた。

入谷さんの部屋を出ると私は昇ったばかりの朝日を全身に浴びながら、駅までの道を清々しい気持ちで走った。
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