十六夜月のラブレター

言い訳

家に帰って急いでシャワーを浴び新しい服に着替えて出社すると、入谷さんはもう来ていて課長や柴田さんと談笑していた。

入谷さんのデスクの上にはできあがったプレゼンの配布資料が積まれている。

結局入谷さんに作らせてしまった。もしかしたら柴田さんも手伝ってくれたのかもしれない。

でも、配布資料が完成していることには心から安堵した。

無自覚イケメンではなく超自覚イケメンだった入谷さんは、今までとは全く違って私に見向きもしないどころか、まるで無視しているかのように挨拶もしてくれなかった。

それが二人で会っていたことを隠す作戦なのかどうかはわからない。

元々会社で話しかけないでと言ったのは私だし。

あの夜私がとった失礼な態度やUSBを失くしてしまったことなど本当に怒っていても仕方がない。

ちゃんと謝ることだけはしたいけれど。

トイレ休憩に行くと柴田さんとばったり会った。

「ねえ深沢さん、今日の朝、入谷さん自分でプレゼンの配布資料作ってたけどなんで? 昨日頼まれてなかった?」

「あの、それが、私がUSBを失くしてしまって作れなかったんです」

「それはダメだわ。なんか珍しく入谷さんが『ホント困る』的なこと言ってたよ。あたしも手伝って全部作れたけど、ちゃんと謝っておいた方がいいわよ」

「はい、御迷惑かけてすみません」

「あたしはいいの。ちゃんと入谷さんに謝るのよ」

「わかりました。教えてくださってありがとうございます」

トイレから柴田さんが出ていく。

柴田さんの話を聞いて入谷さんはわざとそう言ってくれたような気がした。
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