十六夜月のラブレター
何を頼んでいいかよくわからない私に気付いて、入谷さんがアラカルトでいろいろオーダーしてくれた。

こういうのも本当にスマートでモテるのもよくわかる。

「プレゼン成功にかんぱーい」

フルートグラスを鳴らしてシャンパンで乾杯する。炭酸が口の中にシュワシュワと広がった。

「本当にUSBの件、すみませんでした」

「もういいよ。それに隠した犯人わかっちゃったし」

「えっ!?」

「聞きたい? 犯人」

「……うん」

「課長だった」

「まさか!? あののんびり屋の課長が!?」

私が必死になってUSBを探していた時、課長は美味しそうにコーヒーを啜っていたのに。

「あの日、徹夜明けで会社に行ってフロアに入ろうとしたら、君のデスクの上に課長がそっとUSBを置いているのを見たんだ。だから時間差でフロアに入って何も見てないフリして『なんだ、ここにあるじゃん』みたいな演技して。そのUSB使って配布資料作ったんだよ」

「そうだったんだ……でもなんで課長がそんなこと……」

「もしかしたら来年の定年まで俺に課長の座を奪われないよう、ミスさせようとしたのかも」

いつも明るくて陽キャな入谷さんが思いのほか淋しそうな顔をした。

本当はいつもいろいろ傷付いていても平気なフリをしているだけなのかも。

何かフォローしなきゃ!

「それは違います! 入谷さんのせいじゃなくて私のせいです! ほら私、課長が命懸けてた川柳コンクールで優秀賞獲っちゃったから」

向きになって言い過ぎたのか入谷さんはしばらく呆気にとられたあと、手の甲を口にあてて堪えきれないように笑いだした。
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