十六夜月のラブレター
「あはははは! もしかして俺を励まそうとしてくれてる? ほんと月見ちゃんって優しいね」

あ、また月見ちゃんて言ってくれた。

きっとあの夜のあと、営業部の名簿とかで調べたのだろう。

「入谷さんも優しいですよ。だって私が責められないように、わざと柴田さんに怒ってるみたいな感じで話してくれたんですよね?」

「また君に無自覚イケメンって怒られちゃうから」

いつものように入谷さんがいたずらっ子みたいに笑ってくれる。

「まあ誰だって自分の身を護るために必死だよね。USB戻してくれただけ課長もいい人かも。プレゼンにも間に合ったし」

「そういう入谷さんの考え方、素敵だなって思います」

私がそう言うと入谷さんは笑うのをやめてまっすぐに見つめてきた。

あれ? なんか変なこと言ったかな。

その時オーダーした料理が運ばれてきたので私達は一緒に取り分けながら食事をした。

入谷さんがセレクトしてくれたイタリア産の白ワインと赤ワインも愉しみながら。

一頻り食事を終えると、私は今日ここに来た本題を話すことにした。

「あの、もうひとつ謝らせてください。この前の夜、御馳走もしてもらったのにあんな子供みたいに泣いて逃げるように帰ったりして、本当にごめんなさい」

「ああ、あれは俺が悪くて……」

「いいえ。入谷さんももう気付いてるとおり、私は雪見じゃありません。双子の姉の月見なんです。ごめんなさい」

「なんで謝るの?」

「私、幼い頃からたくさんの人に雪見と間違えさせては違ったってがっかりさせてきたんです。だから、入谷さんもがっかりさせてしまうと思ったら、あんな風に取り乱してしまって」

「もしかして、ものすごいコンプレックスとか抱えてるんじゃ? 話すのも辛いなら無理しなくていいんだよ」
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