十六夜月のラブレター
仕事を終えて帰宅した私はまず、小学校から高校までの卒業アルバムを広げた。

入谷さんは28歳で私より1歳年上だから同じ卒業アルバムには載っていない。

でも、同級生に同じ苗字の人がいれば何か思い出すきっかけになるかも。

そう思ったけれど入谷という苗字の生徒はいなかった。

ベッドに寝転んで記憶の近い順番から過去を遡る。

6年前に大学を卒業して東京支社に入社した。

大阪本社には面接や入社式、研修で何度か行ったことはあるけれど、入谷さんに会ったことはない。

さすがに社内の人のことは忘れないはず。

大学時代を振り返ってみる。

サークルにも入ってなかったし交友関係は広くない。

友人やその友人たち、ゼミの仲間たちを振り返ってみても入谷さんと会った記憶はなかった。

アルバイト先のコーヒーショップの常連客などの中にもいない。

高校時代は女子高だったから男子となんて接触する機会がなかったし、他校の知り合いもいなかった。

となると、中学時代以前に会っていたということになるけれど、ここから前の記憶は一筋縄ではいかない。

単純に昔のことだからじゃない。

その頃の私は今よりもっと自分の殻に閉じ込もっていて、周りを一切見ていなかったから。

私――深沢月見には雪見という名の一卵性双生児の妹がいる。

雪見は幼い頃からかわいくてよく笑う天真爛漫な誰からも愛される子だった。

雪見とは違って引っ込み思案で感情を素直に表すことが苦手な私はうまく笑えなかった。

だからか両親をはじめ誰からもかわいいと言われたことがなかった。

皆、雪見のことはかわいいと言うのに。

でも外見は同じだからいつも雪見と間違えられては、この言葉を言われた。

「あ、違った。雪見ちゃんじゃなかった」

皆が私と知って残念そうな顔をする。

その落胆の姿を見るたび私はもっと笑えなくなった。

自分なのが申し訳なくなった。

そして私は、自分が誰なのかわからなくなった。
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