夜探偵事務所と八尺様

【京都・九条邸】

長い夜が明け
朝の光が
砕け散ったガラスの破片をきらきらと照らしていた
だが
家の中に平穏はなかった
昨夜の恐怖が
まだ重く空気の中に澱んでいる
その時
仁のスマートフォンが鳴った
夜からだった
仁はスピーカーモードにして電話に出る
仁:『もしもし、夜か』
夜:『仁、そっち-はどうだった?』
仁は深いため息をついた
仁:『……地獄じゃった』
仁:『昨夜22時頃から今日の午前3時まで』
仁:『ヤツはこの家を嬲り続けた』
仁:『結界は破られわし一人ではどうにもならんかった』
電話の向こうで夜が息を呑むのが分かった
夜:「……そう。こっちも、全て分かったわ」
夜は
この二日間の調査結果の全てを
仁に伝えた
夜:「17年前に、鎮女村の南の地蔵が、まず地滑りで破壊された」
夜:「それが、全ての始まりよ」
夜:「封印に大きな穴が空き、八尺様は村の外に出られるようになった」
夜:「そして、隣村だった『かしき村』に、初めて姿を現したのよ」
仁:『……なるほどな』
夜:「かしき村の村人たちはパニックになった」
夜:「おそらく、九条さんのお祖父さんあたりでしょうね」
夜:「八尺様から孫を守るために、昔からの言い伝えを頼った」
夜:「鎮女村の、まだ無事だった北の地蔵から、よだれかけの一部をちぎり取り、お守りとして、子供だった九条さんに持たせたのよ」
仁:『なんと……!それが、あの蔵にあった布切れか!』
夜:「ええ。でも、それが、最悪の選択だった」
夜は
静かに
しかし、残酷な真実を語り始めた
夜:「八尺様は、もともと、特定の誰かを狙っていたわけじゃない」
夜:「ただ、我が子を探して、さまよっていただけ」
夜:「でも、九条少年が、地蔵の『子供の匂い』がする布を持ってしまった」
夜:「そのせいで、八尺様は、九条少年を」
夜:「自分の『子供』だと、認識してしまったのよ」
夜:「彼女はかしき村で、子供だった九条さんを襲おうとした」
夜:「だが、それは失敗に終わった」
夜:「それから今まで、17年間」
夜:「彼女は、自分の『子供』だと思い込んだ九-条さんの面影だけを頼りに」
夜:「ずっと、ずっと、さまよい、探し続けていたのよ」
仁は、そのあまりに悲しく、そして執拗な怨念に
ただ言葉を失っていた
夜:「そして、ついに見つけてしまった」
夜:「成長した九条さんの中から、彼の幼い頃の面影を、完璧に受け継いだ存在を」
夜:「……息子の、遥人君をね」
夜:「これが、事件の全ての真相よ」
夜:「とにかく、そっちに戻るわ」
夜:「……最後の作戦を、考えましょう」
夜はそれだけ言うと電話を切った
そして
夜と健太を乗せたテスラは
全ての元凶が待つ
京都市内の九条家へと
向かった
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