夜探偵事務所と八尺様
第五章:鬼女の館
第五章:鬼女の館


【鎮女村・西の旧集落】

鎮女村から西へ
車でさらに30分ほど走っただろうか
二人は、その場所にたどり着いた
森の木々と一体化するように
蔦に覆われた、巨大な洋館が佇んでいた
ガラスは割れ壁は朽ち果て
それでもなお
かつての栄華を主張するかのように
その形をかろうじて保っている
玄関の重厚な扉は
とうの昔になくなっていた
ぽっかりと開いた闇の入り口が
二人を誘っている
夜と健太は
テスラを少し離れた場所に停め
その闇の中へと、足を踏み入れた
中は、カビと腐った木の匂いで満ちていた
床には埃が積もり
二人の足音が、不気味に響き渡る
夜:「手分けして調査するわよ」
夜:「何か見つけたら、大声で叫びなさい」
健太:「はい」
健太は二階へ
夜は一階の探索を始めた
夜が足を踏み入れたのは
かつてリビングだったであろう、広大な空間だった
天井には、錆びついたシャンデリア
暖炉の上には
一枚の巨大な肖像画が、かかっている
赤いドレスを着て
椅子に座る、中年女性の肖像画
その目は、冷たく、傲慢な光を宿している
夜:「……鬼女、ね」
夜は、独り言のように呟いた
食器棚が、音を立てて崩れかけている
その手前に、小さなテーブルがあった
朽ち果てた写真立てがいくつか倒れ
中から、色褪せた写真がこぼれ落ちていた
夜は、その中の一枚を拾い上げる
肖-像画の女
その夫であろう男
そして、その息子と、見知らぬ後妻らしき女
古い、家族写真だ
写真の中では
鬼女が、跡取りである孫の男の赤ん坊を
まるで所有物のように、固い表情で抱いている
写真の裏には
走り書きで『1955年』とだけ記されている
70年前の、写真
【洋館・二階】
健太は
メイドの居住区だったと思われる
小さな部屋を物色していた
簡素なベッドと、小さな棚があるだけ
彼は、棚の引き出しを開けた
その奥に、ひっそりと置かれていた
一冊の、古い日記を手に取る
彼は、パラパラとページをめくった
そして、最後の方のページで、手が止まった
『1955年〇月〇日』
『シズコ様が亡くなられて、四十九日が経った』
『あんなに喜んでいらっしゃった、マモル様のお顔も見れずに……』
『せめて、線香の一本でもあげに行きたい』
『けれど、奥様(鬼女)から、固く禁じられている』
『あんなに、優しかったシズコ様が、あまりに不憫だ』
健太:「……シズコ……様?」
健太:「これって、八尺様の下の名前か……?」
健太:「マモル……様……。じゃあ、これが、八尺様の子供の…」
彼が、日記のそのページを凝視した
その時だった
日記のページの間から
何か、小さなものが、はらりと床に落ちた
健太は、それを拾い上げる
そして
その物体を見た瞬間
彼の全身が、驚愕に凍り付いた
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