夜探偵事務所と八尺様
【鎮女村・西の旧集落・洋館】
夜は
健太から渡された一枚の写真を
静かに見つめていた
そこに写る
幸せそうに赤ん坊を抱く
シズコという名の、若き母の笑顔
健太:「このメイドの日記から出てきました」
健太:「日記の内容は、ほとんどが鎮女村に住んでいた頃のものです」
健太:「メイドの視点で、当時の暮らしが書かれています」
健太:「まだ、最初の方しか読めていませんが…」
夜は写真から目を離すと
今度はその日記を受け取った
パラパラと
古く、脆くなったページをめくる
そこには
メイドの、真面目な文字が並んでいた
夜:「……そう」
夜:「もう少しだけ、この館を調べてから、九条家に戻るわ」
二人は再び
手分けして館の調査を再開した
夜は書斎だったであろう部屋に入る
床に散らばる本や書類の山
健太は客間や食堂を改めて見て回る
そして
二人は、いくつかの事実を突き止めた
この館に住んでいた一族の名は
『黒木』
何世代にもわたり
この地域一帯を支配してきた大地主だったこと
その豊かな森林資源を使い
木材や製薬の事業で、巨大な富を掴んだこと
そして
戦後、この地の復興のために多額の投資をし
名家としての地位を盤石なものにしたこと
全てが、繋がった
逆らう者のいない、絶対的な権力
その傲慢さが
シズコという一人の女性と
その子供の運命を
狂わせたのだ
夕方になり
西の空が赤く染まり始めた頃
二人は洋館を後にした
その手には
シズコが生きた証である一枚の写真と
メイドが書き残した一冊の日記
そして
夜がポケットにしまったままの
謎のアイボリー色の小箱
全ての真実を解き明かす鍵は
揃った
二人は
決戦の地である京都の九条家へと
テスラを走らせた