夜探偵事務所と八尺様
第二章:呪いの震源地
第二章:呪いの震源地
【京都・美山町へ向かう車中】
夜の京都を抜け
テスラは北へと向かう
目指すは九条がかつて八尺様に襲われたという
美山町周辺の廃村
街の灯りが途絶え
車は闇に包まれた山道へと入っていった
窓の外には
どこまでも続く深い森と
時折姿を見せる古い茅葺屋根の民家
日本の原風景とも言えるその景色が
今は不気味な気配を漂わせている
健太:「……すごいところですね」
健太はゴクリと唾を飲んだ
夜:「茅葺きの里で有名な観光地よ」
夜:「昼間は、ね」
夜は静かに言った
健太はノートパソコンを開き
17年前の九条の体験談と
八尺様の目撃情報が多発している現在の状況を
照らし合わせていた
健太:「九条さんの話が本当なら…」
健太:「八尺様は元々この美山町のどこかにいたはずです」
健太:「それが何らかのきっかけで全国に出現するようになった…」
夜:「その『きっかけ』を見つけに行くのよ」
夜:「全ての元凶。呪いの震源地をね」
その時だった
それまで静かだったテスラの巨大なセンターディスプレイに
警告が表示された
【バッテリー残量が低下しています】
【最寄りのスーパーチャージャーを検索しますか?】
夜:「……チッ」
夜は忌々しげに舌打ちをした
夜:「静かで速いのはいいけどこれだから電気自動車は…」
夜:「山道で電欠なんて洒落にならないわよ」
健太:「スーパーチャージャーってそんなにどこにでもあるんですか?」
夜:「田舎の方が意外とあるのよ。道の駅とかにね」
ディスプレイには
ここから数キロ先の道の駅に
スーパーチャージャーステーションがあると表示されていた
二人はそこへ向かうことにした
【美山町・道の駅】
深夜の道の駅は
不気味なほど静まり返っていた
駐車場に他の車は一台もない
夜は慣れた手つきで
テスラに充電ケーブルを接続する
ディスプレイには充電完了までの予測時間が表示された
約30分
夜:「健太、あんたは車で待ってなさい」
夜:「私は少し、ここの気配を探ってくる」
健太:「は、はい!」
夜は闇の中へと姿を消した
一人車内に残された健太は
再びノートパソコンを開き調査を再開する
八尺様
美山町
廃村
子供
神隠し
彼は思いつく限りのキーワードを組み合わせ
検索の網を広げていく
だが有力な情報は何も出てこない
2ちゃんねるの有名な話の焼き増しか
あるいはオカルトマニアの妄想ばかり
健太:「ダメだ……行き詰った…」
彼が諦めかけたその時
一つの個人ブログが検索の隅に引っかかった
タイトルは
『鎮女村(しずめむら)』の地蔵信仰に関する一考察』
健太:(鎮女村……?聞いたことないな)
それは京都の郷土史を研究している
大学教授のブログだった
彼は何気なくそのページを開く
そして
書かれていた内容に
全身が凍り付いた
ブログにはこう書かれていた
『かつて美山町には『鎮女村』という名の集落が存在した』
『この村には古くから子供を守る奇妙な風習があった』
『村の東西南北、四つの方角の辻に、それぞれ子供の姿をした地蔵を祀るのだ』
『そして、村の子供が7歳になるまでは、決してその地蔵が祀られた四つの辻の外、つまり村の外に出してはならない、という固い禁忌があった』
『郷土史にも残っていない、この奇妙な風習の理由は、村に伝わる一つの『鬼女』の伝説にある』
『その鬼女は、異常に背が高く、白い服を着て、子供を攫うとされていた』
『つまり、東西南北の子供地蔵は、村の子供たちを鬼女から守るための、一種の強力な結界だったのではないか』
『鬼女は、その子供の地蔵が作る結界の中から、決して出ることができなかったのではないだろうか』
健太は絶叫しそうになるのを
必死にこらえた
八尺様は
元々、一つの村に封印されていたのだ
その封印とは
東西南北に置かれた
四体の子供の地蔵
健太は震える指で
夜に電話をかけた
健太:「夜さん!とんでもないことが分かりました!」