【書籍化】聖騎士様と始める異世界旅行事業 ~旅行会社の会社員でしたが異世界に転生したので起業します~
 村長はお茶を一口含んだ。

「……なるほど、ついに転生者が現れたのですか。女神が動き出したようですな」
「女神が?」

 ヒースは眉を顰める。やはり村長は自分の知り得ないことを知っているらしい。

「ヒース殿は『星を喰らう魔獣』についてご存知ですかな?」
「いえ、聞いたこともありませんが……」
「ふむ、クラーク一族には伝わっているはずですが。では教皇の位に就いた者のみが知っているのかもしれませんな。そういったルールなのでしょう」

 村長は飲んでいたお茶を敷物に置く。

「おそらく私がここで『星を喰らう魔獣』について貴方にお伝えすることは、クラーク一族のそのルールを破ることになるのでしょうな。貴方は罰せられるかもしれない。立場が危うくなるかもしれぬ。それでもよろしいのですかな?」

 ヒースは迷うことなく頷いた。
 自分が一族のルールを破ることは百も承知だった。自分はこの世界の仕組みを変えたいと思っていた。その理由は――。

「村長、教えてください。なぜ僕たちの一族は聖騎士を騙しているのですか? 聖騎士に倒された竜王を聖なる魔法で封印するふりをして、なぜまた復活するように仕向けているのですか?」

 それがクラーク一族の秘密だった。
 聖騎士に倒されたはずの竜王がなぜ封印に留まっているのか。なぜ何度も何度も復活を繰り返すのか。それは代々の聖騎士に同行したクラーク一族の神官の仕業なのだ。クラーク一族の神官は、一時的に封印されるけれども時が経てばそれが解ける魔法を竜王にかけていた。竜王が何度も復活するのは一族がわざと行っていること。聖騎士一族はそれを知らされていないから、自分たちの力が及ばないから竜王の息の根を完全に止めることができないのだ、だから何度も復活するのだと思い込んでいる。

 自分はそれが我慢ならなかった。聖騎士を騙してわざと竜王を復活させるこの世界の仕組みを変えたかった。だから転生者であるセシリーナに近づいた。前世の記憶を持って転生した彼女は女神の寵愛を受けた存在。彼女といれば、クラーク一族がなぜ繰り返し竜王を復活させるのか、この世界に隠された真実に近づける気がして。

(事実、セシリーナと一緒にいたおかげでこうして村長から話を聞くことができた)

 旅行という名目があったから火の村アグニスにやって来ることができた。ただ視察に行くと言ったらクラーク一族の者に反対されただろう。村長から隠された真実を聞く機会を得てしまうから。
 村長は立ち上がり、煤けた本棚にあった一冊の聖典を取り出した。

「これは女神が記した聖典の写本ですじゃ。原典はここより地下にある女神のおわす地にある。それはおいおいお話しいたすとしましょう。まずは貴方様が疑問に思われているクラーク一族の役割についてお話しいたしましょう」

 村長が聖典をめくる。

「もともとクラーク一族は我々と同じ先住民が始祖なのです。先住民は女神から特別な役割を任されております。この世界を『星を喰らう魔獣』から守るために」
「さきほどからおっしゃっているその魔獣が関係しているのですか」
「ええ。率直に申しますと我々はなんとしてもその魔物を倒さなければならないのです。なにせその魔物は星の命を喰って生きている。今はまだ卵が孵化しておりませんから何事もない。けれども卵から孵って幼体になればこの世界はたちまち喰われてしまう」
「その魔物はこの世界そのものを喰らうのですか……なんて恐ろしい」

 ヒースはそれしか言えなかった。魔獣は数あれど世界そのものを餌とするほど凶悪な種類が存在するとは……。それを知っているのは女神と先住民だけなのだろう。そんなものが本当にいるのかにわかには信じられない。けれど真実、存在するのだろう。

「細かいところはあとで補填いたしますが、要するに女神は『星を喰らう魔獣』からこの世界を守りたかった。そのために人間たちに魔獣と戦う力を身に着けてもらう必要があった。聖騎士と竜王はそのためにおったのです」
「聖騎士と竜王……話はそこへ繋がるわけですね」
「ええ。女神は初め、卵が孵化する前に除去を試みたそうです。けれどもそれは叶わなかった。そのためせめて幼体のうちに倒そうとした。現在、卵はもうじき孵化するようです。それまでの期間をただ待つのではなく人間たちを鍛えたのです」
「鍛えたというのは具体的にどのように?」
「聖騎士と竜王の戦いをひたすらに繰り返したのです。クラーク一族に竜王の封印と復活を行わせながら。人びとは聖騎士と共に竜王を退けることで魔獣と戦う術を磨きました。それは一重に『星を喰らう魔獣』を倒すため」

 疑問が一気に解決してヒースは気持ちがすとんと落ちた。クラーク一族が竜王を復活するように仕向けていたのは女神の意向だったのだ。聖騎士を騙す形にはなっていたけれどこの世界を救うための至高の使命だった。それがわかって少しほっとした。クラーク一族は悪者ではなかったのだ。
 村長が目じりに皺を刻んで笑んだ。

「クラーク一族のやっていることが不明瞭でしたから、さぞお気を揉んでいらしたでしょう。なにも心配はございません。教皇のお父上も、いずれヒース殿が位を継ぐ際に今の話を伝えるおつもりだったのかもしれません。私が先走ってお伝えしてしまいましたが」
「いえ、大切なお話をありがとうございます。本当は僕に話してはいけない内容だったのでしょう。僕はまだ教皇ではないので」
「そうですが、いずれは貴方様も知ることですので。早まったことをしたとは思っておりません。むしろ貴方様がクラーク一族を見限るまえに真実をお伝えできてよかった」

 村長の言うとおり、自分はクラーク一族のことを疑っていた。竜王を繰り返し復活させている詐欺師――実は竜王と共に中央大陸を乗っ取ろうとしているのではないかと。

(今思うとかなり被害妄想だな)

 自分の勘違いに恥ずかしくなる。クラーク一族は聖騎士を裏切ってはいなかった。女神の意向に従ってこの世界を守るために暗躍していたのだ。何年も何年も。気が遠くなるほどの歳月を。クラーク一族の一員として生まれたことを誇りに思えた。
 これで自分の疑問は大体のところ解決した。あとは――。

「村長、その『星を喰らう魔獣』を倒すにはどうしたら良いのでしょう? それが女神や先住民たち、クラーク一族の悲願であることはわかりました。僕も一族のひとりとしてできることがしたい」

 村長はヒースを眩しそうに見つめる。

「そうおっしゃってくださってありがたい。まずはその魔物の卵がある場所をお教えいたしましょう。いずれそこへ赴くことになるでしょうから。その地は、村の北部にある火山の地下に眠っておるのです――」
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