メシマズな彼女はイケメンシェフに溺愛される
「ん……ダメだよ、待って」
「陽音の料理を食べたら陽音を食べたくなった」
「もう!」
 軽く腕を叩くと、乃蒼は笑って体を離した。

「でもほんとに嬉しかったんだ。初めてだったから」
 まなざしに、陽音の胸が高鳴る。彼はチョコレートより甘くて濃厚で、熱くとろけて彼への深みにはまる一方だ。
「食事を終わるのを待って一緒にシャワー浴びればよかった」
 残念そうな乃蒼に笑みを返し、陽音は立ち上がる。

「急いで入って来るから」
「待ってるよ」
 陽音の唇に軽くキスをして、乃蒼は歩き出す陽音を見送る。
「……許せない」
 見たことのない男の影に、乃蒼は怒りの炎を燃やした。

***

 二年前、淳太にフラれた陽音はとぼとぼと夜の下を歩いた。
 街の明かりが目に滲んではこぼれ、雫となって地面を濡らす。
 彼が最初に食事を薙ぎ払ったのは、母直伝の適当オムレツだった。

『今日はお母さん直伝のオムレツなの。適当なのにすごくおいしいのよ』
 テーブルに並べた直後、彼は適当オムレツを床にたたきつけ、踏みつけた。

『なにするの!?』
『こんなもの、豚の餌以下!』
 憎い敵のようになんどもなんども踏みつけられ、陽音は呆然とするしかなかった。
 思い出すだけでまた涙があふれる。
 お腹がくううっと鳴って、陽音は絶望した心地で押さえる。
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