メシマズな彼女はイケメンシェフに溺愛される
 おいしいって感じる。
 嬉しい。
 ちゃんと、おいしい。

 ひっく、ひっく、と泣くから胸が痛くなるが、こんな状態でもちゃんとおいしいと思えて、だからこぼれる雫を止められず、ハンバーグがしょっぱくなってしまった。
 ひとりしかいない店員はシンクに向かい、ただ無言で鍋を洗っている。

 食べ終えてナイフとフォークを置くと、彼はすっと動いて冷蔵庫に行った。
 食事の皿に替えて出されたのはアイスを添えたショートケーキ。飾られたカスタードソースに抹茶のソースでたくさんの四葉が描かれている。

「ケーキはサービスです。どうぞお召し上がりください」
 無言の励ましに、陽音はさらに涙をこぼした。
「あ、りが……」
 後半は言葉にならなかった。

 自分はなんてひどいことを考えたんだろう。
 努力してないわけがない。こんなにおいしい料理を作れるんだから。
 さっきの怒りはやつあたりだ。彼はそんなことを知りもせず、応援してくれる。

 悲しみでもなく怒りでもなく、だけど込み上げて来るものを感じながら、陽音はフォークでケーキをちぎって一口ずついただく。やわらかく溶ける生クリームは甘さが控えめで、アイスはミルクが濃厚だった。
 最後のひとかけらをソースにからめて食べ終えたころには、なぜだか清々しさがあった。
 自然と両手を合わせ、ごちそうさまでした、とつぶやく。

 化粧が禿げてぼろぼろの顔を見られたくなくて、うつむいたまま席を立った。
 レジでのお会計も彼だった。顔を見られないようにしてスマホで決済する。
「おいしかったです」
 それだけを言って背を向けたときだった。
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