メシマズな彼女はイケメンシェフに溺愛される
翌週の水曜日。
彼女は再び『lumière』に向かった。
会社を終えたあとである上、道に迷ったのですっかり遅くなってしまった。
辿り着いたお店はあの夜と同じく、暗い空の下で希望の光のように輝いている。
店の前に行くと、ふたりの女性がふくれっ面で出て来た。
「貸し切りってなに! 書いてなかったじゃん!」
「イケメンがやってるっていうから来たのに!」
すれ違うとき、きつい香水がぷんと漂った。
陽音は扉を見てたじろぐ。
貸し切りと言っていた。招待されたとはいえ、自分が入ってもいいのだろうか。
今ならまだ帰れる。だけど、自ら招待した客が来なかったら彼はどれだけ失望するだろう。
そっとドアを開けると、前と同じく温かく優しい空気に迎えられた。
カウンターの中に居た彼は陽音を見てにっこりと笑う。
「いらっしゃいませ。テーブルへどうぞ」
迎える声もまた温かかった。
客のいない店内に、陽音は目を丸くする。
「ほかのお客さんは?」
「今日はあなただけです」
笑う顔が輝いて見えて、陽音はどきどきしながらうつむいた。
テーブルに着くと、最初に提供されたのは食前酒のシャンパン。さわやかな酸味がこれからの料理を予感させ、期待がふくらむ。
アミューズは彩りがかわいかった。小さくカットされたハムやサーモンがパイに載り、パセリやパプリカ、フェンネルで飾られ、口に入れた瞬間に幸福が満ちる。
オードブルはホワイトアスパラにアボカドソース。黄色と白の食用花が華やかだ。アスパラの触感に濃厚なアボカドソースが絡み、茎のシャキシャキ感も穂先のほろほろした食感も楽しい。