メシマズな彼女はイケメンシェフに溺愛される
 スープはビーツのポタージュ。ハートの器に入った薄桃色を舌に載せた瞬間、とろみとともに味がほどけていく。
 一緒に提供されたパンはほかほかで、バターを塗るといっきに溶けて染みる。口に入れるとほのかな塩味がひろがり、バターの香りが鼻から抜ける。

 メインは肉料理だ。丸く成型された塊肉に格子模様に焼き目が入り、食欲をそそる。クレソンの緑は瑞々しく、添えられたベビーコーンとアスパラがクロスして、赤ワインとエシャロットのソースに一筋の白いソースが彩りで引かれているのも目に楽しい。
 まずはソースなしでいただく。噛んだ瞬間に肉汁があふれ、唾液がじゅわっと出た。ソースをからめていただくとワインの風味とエシャロットの甘みが広がり、心地よい。

 最後はチョコレートケーキ。バニラアイスが添えられて、カスタードソースとミントで飾られている。ケーキはカカオの濃厚さがたまらない。バニラアイスはコクがあり、暖房と食事でほてった体にひんやりと溶けていく。
 同時に出されたコーヒーは苦みと酸味のバランスが良く、ケーキとの相性も良かった。

 デザートを食べ終わったタイミングで、彼が現れた。
「いかがでしたか?」
「どれもすごくおいしかったです!」
 にこにこと答えると、乃蒼の顔がゆるんだ。相好を崩した彼はなんだか身近に見えた。

「全部が新作なんですか?」
「……そうです」
「新作とは思えない完成度でした。プロってすごいんですね!」

 陽音は切なさに目を細めた。これが努力と実力の差だろうか。彼らはずっと料理と向き合い、休日も研鑽を重ねているのだろう。自分の努力はしょせん片手間と言われそうだ。
「ほめていただけて嬉しいです。ここは師匠の店なんですけど今は入院中で、俺が任されてるんです」
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