メシマズな彼女はイケメンシェフに溺愛される

***

 目が覚めた陽音は、はあっと大きく息をついた。
 隣を見ると、彼はもういなかった。朝食の準備に行ったのだろう。
 別れからプロポーズまでの夢を見たことで、疲労感と幸福感が同時に去来する。

 あのあと、彼の師匠は退院したものの、店を閉めることになった。
 だから彼は独立を決めた。ついていくと決めた陽音に、彼は「料理をしなくてもいい」と言ってくれた。
 式はふたりだけで済ませ、プレオープンを兼ねて今の店でプチ披露宴を行った。
 新郎新婦が料理を出す披露宴になったが、参加者には満足してもらえたようだった。

 お店の名前は、白築の築を月にして、ふたりを繋げた店の『光』を貰って、『Clair de Lune(クレール ドゥ リュンヌ)(月の光)』とした。
彼は家でもお店でも、野菜の皮むきすら頼んでこず、陽音はホール係として必死に彼を支え、今日に至る。
 身支度を整えてダイニングに行くと、フライパンを手にした彼が穏やかな笑みで迎えてくれた。

「いいタイミング。ちょうどできるよ」
「ありがとう」
 一緒に席について、まずはコーヒーにミルクを入れて一口飲んだ。コーヒーメーカーで淹れたそれは安定したおいしさがある。

 続いてエッグベネディクトをいただく。トーストされたイングリッシュマフィンに半熟の卵、厚切りのカリカリベーコン。オランデーズソースをたっぷりとかけたそれをナイフとフォークで切って口に入れる。バターとレモンの風味が溶け合い、舌がとろけていく。サクサクのマフィンとベーコンの肉汁が絶妙なハーモニーを奏でている。
 レタスサラダはしゃきしゃきで、マヨネーズをアレンジしたドレッシングがよく合っている。

 彼の作る朝食はいつも絶品で、もちろん昼食も夕食も絶品だ。
 陽音は幸せな食卓を、思う存分に堪能した。
< 21 / 51 >

この作品をシェア

pagetop