メシマズな彼女はイケメンシェフに溺愛される
「あいつの奥さんが体調崩したって連絡があって解散した。ごはんは済ませて来たから」
 言いながら、乃蒼の目がテーブルに向く。

 しまった。
 陽音の顔から血の気が失せた。
 料理を見られた。どんな罵声が飛んでくるかわからない。

「陽音、作ったの?」
 驚いた彼に、陽音はびくっと震えて身をすくめる。
「ごめんなさい、食べに行くのが面倒になって」
「へえ、おいしそう」
 耳慣れない言葉に陽音は目を見開いた。

 止める間もなく彼が箸を手に取り、適当オムレツを一口サイズに切ってぱくっと食べる。
 陽音は自身の体を抱きしめた。
 どれだけ怒られるだろう。
 恐怖におののく陽音の前で、もぐもぐと口を動かしていた彼は、やがて、ごくんと飲み込む。美しいのどぼとけが動くさまを、陽音はただ震えて見ていた。

「おいしい!」
 出てきた言葉に、陽音は耳を疑った。
「ごめん、気を遣わせて」
 トレイをどけて泣きそうにうつむくと、ぽん、と頭に手が載せられた。

 驚いて彼を見ると、慈愛に満ちたまなざしがあった。
「本当にそう思ったのに。陽音のトラウマは深いね」
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