帝の唯一の女〜巫女は更衣となり、愛に囚われる〜
御殿を抜けると、秋の風が頬を撫でた。

庭には手入れの行き届いた草木が並び、踏み石が奥へと続いている。

「これは桜、こちらは橘の木だよ。」

暁宮様の指先が示す先に、淡い葉を揺らす若木と、丸い実をつけた橘があった。

「まあ……本物の橘を見るのは初めてです。」

思わず声が弾む。

その横顔に暁宮様はふと足を止め、何か言いかけてやめた。

代わりに、ただ静かに見つめる。

その視線の深さに気づいたのは、庭を一巡りして戻る頃だった。

胸の鼓動が、庭の風よりも速く響いていた。

また会へて
かたりあふこそ 嬉しけれ
ことの葉越しに 秋風ぞ吹く

唐突な和歌に私は瞬きをした。

「……私のために?」と問うと、暁宮様はただ微笑み、歩みを進められた。

胸の内に、温かくもくすぐったい風が吹き抜けた。
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