帝の唯一の女〜巫女は更衣となり、愛に囚われる〜
そして新しいお妃様が、暁宮様の元へ入内された。

お母上と同じ藤原一門から輿入れされた姫君は、「桜子様というのですって」と、女房たちが口々に囁き合った。

御簾の向こうに見えたそのお姿は、春の陽を受けた桜花のように艶やかで、暁宮様の御隣に並ぶと、まるでひな祭りの御人形のようだった。

息を呑むほどお似合いで、私は目を逸らすしかなかった。

 その日の夕刻、葛城が静かに私の局を訪れた。

「美琴、”暁宮様の話相手”の任は、今日限りで解かれます」

 手の中にあった硯の水面が、わずかに揺れた。

「もし、離れがたいのなら……このまま都にいてもいいのよ」

その優しさが、かえって胸に突き刺さった。

ここに留まれば、暁宮様を遠くから見続けることはできる。

けれど、その隣には、もう私の座る場所はない――。
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