帝の唯一の女〜巫女は更衣となり、愛に囚われる〜
「実は、高熱を出して苦しんでおられる。」

「分かりました。出向きましょう。」

私はすぐに白衣を整え、神社を後にした。

「巫女殿は、ずっと神社にお住まいで?」

「いえ、小さな村からやってまいりました。」

使者は驚いたように目を丸くし、「そうでしたか。」と頷くと、歩き疲れぬよう気遣う言葉をかけてくれた。

道中、日が傾き始め、山の端が朱に染まっていく。

「皇居に着くのは、今夜遅くになります。そのまま暁宮様にお会いになりますか?」

「お苦しみとあれば、少しでも早い方がよろしいでしょう。」

自分でも驚くほど迷いはなかった。

胸の奥がじわじわと熱を帯びる。

神事としての務めに臨む緊張か、それとも──まだ見ぬ暁宮様への、言葉にできない予感なのか。

私は、この夜がきっと大きな転機になると、なぜか確信していた。
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