婚約破棄された上に魔力が強すぎるからと封印された令嬢は魔界の王とお茶を飲む
 壁際に避難したパーティーの参加者たちが、怯えた顔をしてラティエシアたちを見ている。
 その手前では、王宮魔導士たちが青ざめた顔をしていた。
「せっかく完成させた封印牢が……!」と嘆きながら次々と膝を突く。誰もが両手も床に突いて、がっくりとうなだれた。

 落ち込むその姿からラティエシアが視線を外すと、王子とモシェニネの寄り添う姿が目に映った。手に手を取り合い、目の前で起きたことが信じられないと言わんばかりに揃ってぽかんと口を開けている。

 しかしすぐに王子はラティエシアをきつく睨むと、忌々しげに叫んだ。

「封印牢を破るなど……! この化け物め! やはり貴様は私の婚約者として全く相応しくない!」
「――!」

 化け物(・・・)。容赦ない悪態が胸をつらぬく。
 陰でそう言われているのは薄々感じていたが、直接言われたのは初めてだった。
 目だけで辺りを見回す。誰もが眉をひそめてラティエシアを見ている。
 やっぱり私は、誰からも疎まれる存在なんだ。
 ウィズヴァルド様だけは、私に優しくしてくれたけど。

 きっとただ、憐れんで助けてくれただけ――。


 落ち込むラティエシアに、王子が追い打ちを掛けてくる。

「しかも魔族に助けを求めるなど! 不可侵条約を破ったその者も大罪人だ!」
「――!?」

 王子の言葉に目の前が真っ暗になる。
 私だけじゃなく、ウィズヴァルド様まで罰するとでもいうの!?
 もしも本当に魔界の王を処罰したりなんかしたら、人間界と魔界との間に戦争が勃発してしまうかもしれない。ウィズヴァルド様はただ私を助けようとしてくれただけなのに……!

 そう訴えたくても、今まで自分を抑えてばかりだったせいで言葉に詰まってしまう。
 ままならない自分に焦っていると、王子が目を爛々と輝かせながら腕を振りかざした。

「皆の者、その不届き者の魔族を封印せよ!」
「ですが……」

 王宮魔導師たちが互いに顔を見合わせる。その表情は、ためらいと自信のなさを滲ませていた。
 魔術師たちの困惑した反応に、王子が顔を真っ赤にして床を踏み鳴らす。

「なにをもたもたしておるか! その者は不可侵条約を破った大罪人だぞ! 今度こそ貴様らの封印牢を成功させてみせよ!」
「――はっ!」

 魔導師たちが表情を引き締めて、四方から一斉に魔法を放つ。
 やめて――! 焦ったラティエシアが庇うより先に、魔法の光線は魔王を縛り上げていた。
 光の中で、身を捩ろうとする。しかし魔王はほとんど動けないようだった。

「なるほど……。人の編み出した魔法もなかなかのものだな。初めて感じる魔力の流れだ」

 苦しげなつぶやき。
 このままじゃウィズヴァルド様が封印されてしまう。そんなの絶対にいや――!
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