婚約破棄された上に魔力が強すぎるからと封印された令嬢は魔界の王とお茶を飲む
魔王がラティエシアの背後に回る。後ろから抱き締めるようにして、ラティエシアの両手を拾い上げる。
優しい手付きに思わず肩が跳ねてしまった。ここまで男性に近寄られたのは初めてだった。距離の近さに心臓が騒ぎ出す。身体の周りには、ピンクと淡い黄色の入り混じったオーラが出てしまっていた。くすっと笑う声が聞こえてくる。
動揺を見られてしまった――! 恥ずかしさと緊張とにラティエシアが息を詰めていると、頭の上から魔王が話し掛けてきた。
「始めるぞ。少し、驚かせてしまうやも知れぬが……」
「――うっ!?」
つぶやきが聞こえてきた次の瞬間、全身に衝撃が走った。目の中に光が弾ける。ラティエシアが持つ以上の強力な魔力を流されたのだった。
とはいえ不快感はまったくなかった。まるで手に手を添えられて文字の書き順を教わったかのような、『魔力をこう操ればいいんだ』という腑に落ちる感覚がした。
すぐに手を離した魔王が、今度はラティエシアの肩に手を置く。
「今の魔力の流し方で前方に放てば、火魔法と風魔法を同時に出せる」
「二種類の属性の魔法を同時に?」
「ああ。そなたは間違いなく、この牢を構成するすべての障壁を跡形もなく消滅させられる。それほどの強力な魔力をそなたは持っている。万が一、そなたが自身の魔法の威力に耐えられず吹き飛びそうになったとしても、我が後ろで支えてやるから存分に力を発揮するがよい」
「はい、やってみます……!」
たった今教えられたことを、身体の中で再現する。
魔力の強さ、属性の違う魔法の組み合わせ方、そして力の溜め方。魔法学を学ばせてもらったこともないのに、教えられた通りに身体の中で魔力の流れを再現できる。それは息をするくらい簡単だった。
だから私は、王子の婚約者にされたんだ――。
王家がラティエシアを手中に収めようとしていた理由が今ならわかる気がした。私はきっと、兵器にだってなり得る。
「……――いきます!」
自身への掛け声で心を奮い立たせる。
深い集中。視覚、聴覚、嗅覚も触覚も、すべてが消え去ったかのような錯覚。
全身全霊で火魔法と風魔法を同時に放つ。
ドーム状の空間に、すさまじい音と熱風が渦巻く。
その衝撃に耐えきれず、足元がふらつく。ラティエシアがよろめいた瞬間、魔王が優しく背中を受け止めてくれた。
風が収まる。
おそるおそる、目を開く。
そこは、封印牢に閉じ込められたときに立っていた広間の中央だった。
優しい手付きに思わず肩が跳ねてしまった。ここまで男性に近寄られたのは初めてだった。距離の近さに心臓が騒ぎ出す。身体の周りには、ピンクと淡い黄色の入り混じったオーラが出てしまっていた。くすっと笑う声が聞こえてくる。
動揺を見られてしまった――! 恥ずかしさと緊張とにラティエシアが息を詰めていると、頭の上から魔王が話し掛けてきた。
「始めるぞ。少し、驚かせてしまうやも知れぬが……」
「――うっ!?」
つぶやきが聞こえてきた次の瞬間、全身に衝撃が走った。目の中に光が弾ける。ラティエシアが持つ以上の強力な魔力を流されたのだった。
とはいえ不快感はまったくなかった。まるで手に手を添えられて文字の書き順を教わったかのような、『魔力をこう操ればいいんだ』という腑に落ちる感覚がした。
すぐに手を離した魔王が、今度はラティエシアの肩に手を置く。
「今の魔力の流し方で前方に放てば、火魔法と風魔法を同時に出せる」
「二種類の属性の魔法を同時に?」
「ああ。そなたは間違いなく、この牢を構成するすべての障壁を跡形もなく消滅させられる。それほどの強力な魔力をそなたは持っている。万が一、そなたが自身の魔法の威力に耐えられず吹き飛びそうになったとしても、我が後ろで支えてやるから存分に力を発揮するがよい」
「はい、やってみます……!」
たった今教えられたことを、身体の中で再現する。
魔力の強さ、属性の違う魔法の組み合わせ方、そして力の溜め方。魔法学を学ばせてもらったこともないのに、教えられた通りに身体の中で魔力の流れを再現できる。それは息をするくらい簡単だった。
だから私は、王子の婚約者にされたんだ――。
王家がラティエシアを手中に収めようとしていた理由が今ならわかる気がした。私はきっと、兵器にだってなり得る。
「……――いきます!」
自身への掛け声で心を奮い立たせる。
深い集中。視覚、聴覚、嗅覚も触覚も、すべてが消え去ったかのような錯覚。
全身全霊で火魔法と風魔法を同時に放つ。
ドーム状の空間に、すさまじい音と熱風が渦巻く。
その衝撃に耐えきれず、足元がふらつく。ラティエシアがよろめいた瞬間、魔王が優しく背中を受け止めてくれた。
風が収まる。
おそるおそる、目を開く。
そこは、封印牢に閉じ込められたときに立っていた広間の中央だった。