諦めていた恋の続きを始めます
『最悪だ』
悠真が何かつぶやいたようだが、まどかには聞き取れなかった。
「お久しぶりです」
島で会ったのは去年の夏だった。
あれから慌ただしく時間が流れ、もう新しい年になっている。
夫の見舞いに行っていたのかと思ったが、沙織は華やかな装いだ
手にファーのついたコートを持っていて、深紅のドレスの大きく開いた胸元にはビーズ刺しゅうが輝いている。
「パーティー帰りか?」
悠真の声には冷たい響きがあった。
「仕事がらみよ。出版社の新年会だったの」
人気の美人女医として、マスコミ関係が集まる場所は欠かせないようだ。
「ところであなた、どうしてここへ? 東京での仕事でも頼みに来たの?」
「まさか。まどかは俺と婚約した。今日は新年の挨拶に来ただけだ」
「え?」
沙織の顔が引きつった。
「婚約? 悠真が?」
島では恋人のように振舞っていたが、婚約するとまでは言っていなかった。
それよりも、沙織が同居している悠真の両親から何も聞かされていなかった方が驚きだ。
沙織は大きく目を見開いたが、次の瞬間にはクスクスと笑いだした。
「冗談でしょ」
本気にしていないのか、あからさまにまどかを見下している。
「近いうちに、ここに住むことになっている」
「はあ?」
悠真の真面目な顔を見て、本当のことだと悟ったようだ。
沙織は再び値踏みするような目で、まどかをじっと見てくる。
「ふうん」
「まどかが真大の看病をするから、そのつもりで」
「あら、助かるわ。忙しいから人を雇おうと思っていたの」
「まどかは使用人じゃない。俺の婚約者だ」
再びきっぱりと言い切った悠真の言葉には返事もせず、沙織は「失礼するわ」と言って、ふたりの横をすり抜けていった。