諦めていた恋の続きを始めます
それなのに周防の顔を見た瞬間に、あの夜の記憶がよみがえってきた。
まどかの体の隅々まで貫いた、生きているという実感。
忘れられない肌のぬくもり。甘いささやきや、力強い抱擁。
裏切られた婚約者との教科書通りの行為ではなく、それまで知らなかった世界が開けたような情熱に満ちた一夜だった。
今さらどんな感情があってまどかを抱いたのか、知りたくないし聞くつもりもない。
一夜のあやまちだと決めつけてホテルから姿を消したまどかに、その資格すらないだろう。
周防が診察を始めえたが、うろたえた表情にならないように気をつけて立っているのがやっとだ。
種村の診察を見守りながら、まどかの頭の中は忙しく動いていた。
(どうして、診療船に乗っているの)
周防は一年前までは循環器の医師として、まどかと同じ病院に勤めていた。それ以降のことは、兄からも聞いていない。
この地方にも高名な大学の医学部がいくつかあるから、派閥の違う東京の医大を卒業した医師がわざわざ来るのは不自然な気もする。