諦めていた恋の続きを始めます
真大は手のかからない患者だった。
こちらから声をかけない限り、用事を頼まれることはない。
着替えやリハビリなどで介助が必要なこともあるが、看護師の仕事はほとんどなかった。
だから空いている時間は、家政婦の手伝いをしたり栄子から頼まれた雑用をこなしたりていた。
栄子は、いずれ身内になるのだからと気軽に用を言いつけてくる。
それも家政婦ひとりでは手が回っていなかった納戸の掃除から、年始の挨拶に訪れる来客の茶菓子を準備したり応接室に花を活けることまで幅広い。
家政婦からも「すみません」「助かります」と言われるくらい、用事をこなしていた。
さすがに真治の書斎の整理を頼まれた時は、断ってしまった。
おそらく大事な書類や郵便物があるはずだから、勝手に触ったと言われたくない。
それにまどかは偽装婚約しているだけなのに、これ以上は周防家の内情を知らない方がいい。
「今日は二階の掃除をお願いね」
栄子から、またプライベートスペースの掃除を頼まれた。
今度は悠真の部屋を掃除しておいてと言う。
本人が留守の間に部屋に入るのはどうかと思うが、断るのは婚約者らしくない気もする。
「わかりました」
まどかはにっこり笑って引き受けた。