諦めていた恋の続きを始めます
悪い冗談はやめてと言い返そうとしたのに、まどかの声が出なかった。
かすれてしまって、どうにも音にならない。
沙織はまどかに誇示するように、自分の唇をゆっくりと指でなぞる。
ルージュが落ちているのは誰のせいかと、問うような仕草だ。
「あなたも知っているでしょ。彼とっても激しいから」
何も言えないまどかを見て、沙織はニヤリと口角を上げた。
悠真と沙織は男女の関係にあるから、まどかは隠れ蓑に過ぎない。
家族や世間の目を誤魔化すため、利用されているだけ。
次々と聞かされる言葉は、まどかの心を抉った。
でも悠真はまどかのことをずっと好きだったと言ってくれたのだ。
沙織が悠真の子どもを授かるなんて、あってはならない。
「お義母さまがうるさいのよ、孫が欲しいって」
念のため手術前に真大の精子を保存したが、沙織は人工授精より確率の高い方法を選ぶと言い切った。
「悠真に抱いてもらったわ。その方が確実でしょ」
「そんな」
「真大の子ってことにしてもいいけど。あなたここから出て行くなら、真大さんと離婚して悠真と再婚してもいい」
どちらにしても沙織は周防家に居続けるつもりだ。
「そんなこと、許されない」
震えているまどかの言葉など、沙織には何の圧力にもならない。
「悠真との関係は大学時代からだもの。あなたの許しなんていらないわ」
まどかは沙織が恐ろしくなってきた。まどかの道徳心とか、常識とか、そんな言葉は通用しそうにない。
自分との価値観の違いが大きすぎて、背筋に悪寒が走る。
「あなたは、いらないの」
低い声でそれだけ言い放つと、沙織は階段を下りていった。
このまま自分の部屋に戻って、何事もなかったように朝を迎えるのだろう。