諦めていた恋の続きを始めます


一瞬だけあの夜のことが頭をよぎったが、今はまだ昼前だ。
家に上げたからといって、いきなりあんな展開になるはずがない。

「家でお茶でも……」
「ありがとう」

島の人たちに見送られながら、細い坂道を連れ立って歩く。
まどかが借りている家は、ここからだと少し急な坂道を登るのだ。

斜面に家が並び、狭い庭先に春の花が植えられている。ピンクや白のスイートピーやチューリップが満開だ。
少し開けた場所には、小さな畑やビニールハウスも見える。
小高い山にはミカン畑があるが、今の時期は白い小さな花が咲いている。
そんな島の風景を、悠真は楽しんでいるようだ。

「どうぞ」

家に着くと、悠真は珍しそうに辺りを眺めている。

玄関から二間続きの和室に入り、閉め切っていた縁側のガラス戸を開けた。
縁側に立てば、海からの風を感じられる。

「ここに、ひとりで住んでいるのか?」

部屋の中を見ればすぐにわかるはずなのに、悠真は念を押すように尋ねてくる。

座敷にあるのは小さなちゃぶ台、座布団も申し訳程度に二枚あるだけ。
家具だって本棚として使っている古風な飾り棚とテレビくらいだ。ここで誰かと暮らしているとは思えないだろう。

「コーヒー淹れますね」

買ってきた食材を冷蔵庫に入れてから、まどかは湯を沸かそうとした。

「それより、なにか食べたい」

まさかのリクエストに、家にある食材を頭の中で組み合わせてみる。

「パスタくらいなら作れますが」

「助かる。夜勤明けなんだ」

そんな日にわざわざフェリーに乗って島まで来たのかと思うと、まどかの疑問はますます膨らんだ。






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