諦めていた恋の続きを始めます
楽しい時間はあっという間に過ぎていく。
島まで送ると言う悠真に「これ以上は甘えられないので」と断って、帰りは定期船に乗ることにした。
「気をつけて」
「悠真さんも」
やっと自然に名前で呼べるようになってきた。
「じゃあまた」
「今日はありがとうございました」
桟橋から船が出航しても悠真は岸壁から離れずに、じっと立っている。
まどかは船室に入らず、デッキでその姿を見つめた。
(うかれちゃいけない)
ずっと妹のような立場で満足していたのだから、これからも変わりはないはずだ。
『俺にしておけ』という言葉を夢の中で聞いた記憶はある。
でもそれは、まどかが夢の中で勝手に作り上げたセリフだろう。
東京を離れる前夜のことは、まどかには大きな意味があったとしても悠真には関係ないことだ。
まどかはグッと手を握りしめた。
『あの夜のことに触れないでください』と言ったのは、間違っていないはず。
ふたりの間に起ったことを口にしたら、今の心地よい関係を台無しにしそうで怖かった。
医師と看護師。親友の妹。これがふたりにとってベストなはずだ。
悠真と再会してからまどかの気持ちは大きく揺れ動いているが、その想いに答えを出すのを避けてきた。
(もう恋はしない)
悠真は手の届かない人だとわかっていた。
家柄もいいし、とても優秀な医師でもある。
かつての恋人は悠真の兄と結婚してしまったが、きっと新しい恋人ができるだろう。
とっくに諦めたはずだ。
もしも神様のいたずらで恋人になれたとしても、和也の時みたいに裏切られたら。
想像するだけで恐ろしかった。
まどかの心は粉々になって、二度と立ち直れないかもしれない。