諦めていた恋の続きを始めます



***



朝晩はひんやりと心地よい風が吹く季節になった。

さわやかな秋空には、白い雲が浮かんでいる。空と同じ青さの海に、かすかに波が立っている。
あちこちでコスモスが風に揺れている土曜日のお昼過ぎ、穴吹とまどかは、のんびり坂道を歩いていた。

「気持ちのいい季節になりましたね」

近所に往診に行った帰り道だ。

「年末で診療所を閉院するって、島の皆さんにもほぼ伝わりましたね」

「ああ。年末までって区切って正解だった。次のことを考えられるからね」

「四国の病院から医師を派遣してもらえたらいいですね」
「周防先生にも協力してもらっているから、そろそろ返事が来るだろう」

そんなおしゃべりをしながら狭い路地を曲がったとたん、まどかは男性と出くわした。

「キャッ」

勢いでぶつかりそうになったが、その男性の腕がスッと伸びてきて受け止めてくれた。

「やあ」
「悠真さん?」

少し髪が乱れているから、急いでいたのだろうか。

「行き違いにならなくてよかった」

診療所には往診中の札を出しておいたから、探してくれていたようだ。

「穴吹先生、お疲れさまです」

穴吹と悠真は役場にある情報通信機器を使っての遠隔診療で、何度か顔を合わせている。
島の患者の治療を相談しているうち、すっかり打ち解けていた。

「ちょうど今日の診察が終わったところなんだ。よかったら、うちにいらっしゃい」

昼食はまだだろうからと穴吹に誘われるまま、まどかと悠真はおじゃますることになった。

穴吹家は診療所にほど近い場所にある、石造りの塀に囲まれた屋敷だ。
庭にはオリーブやミカンの木が雑多に植えてあって、まるで果樹園のようだ。


< 57 / 173 >

この作品をシェア

pagetop