諦めていた恋の続きを始めます


防波堤での釣りは初心者向けらしく、魚が集まりやすいから悠真でも楽しめるらしい。

まどかは訪問看護で数件回る途中に、ふたりの様子を眺めた。
道具一式を穴吹から借りて手ほどきを受け、悠真はうれしそうに釣り糸を垂れている。
悠真のこんな表情は珍しい。いつも冷静で感情をあまり見せない人が、とてもリラックスしている。

(まるで父子? 師匠と弟子?)
 
家族と言ってもおかしくないような空気感を感じた。

悠真の父は医者でありながら大病院を経営している。
忙しいから、父子で釣りなんてする時間はなかっただろう。

悠真はあまり自分の家族のことは口にしないし、かつては大石家に入り浸っていたくらいだ。
周防家は由緒ある家柄だから格式も高そうだ。きっと大石家のような、ざっくばらんな家庭が珍しかったのだろう。
穴吹と過ごす時間も、それに似たものかもしれない。

(こんな悠真さん、初めて見るわ)

とても楽しんでいるようなので、何時のフェリーで帰るつもりなのか聞くのが申し訳ない気もする。

(このあと、どうする予定なのかな)

島には釣り客用の民宿くらいしかないが、週末だから満室のはずだ。
そう考えている自分に、まどかは戸惑った。
フェリーに乗り遅れる心配をしているのか、乗り遅れて欲しいのか、自分でもわからない。
さっきふたりの関係は友だちがピッタリだと思ったばかりなのに、どうかしている。





< 60 / 173 >

この作品をシェア

pagetop