諦めていた恋の続きを始めます


仕事が終わったので、まどかも防波堤に足を向けた。
釣り糸を垂れている悠真に、後ろからそっと声をかけてみる。

「釣れましたか?」

「小アジだけ」

「初めてにしては上出来だよ」

残念そうな悠真に、穴吹が慰めるような調子で声をかける。

「チヌ(黒ダイ)くらい釣ってみたかったのですが」
「それは難しそうだねえ」

悠真は大物を釣りたいと言うが、岩場ならともかく防波堤では難しいよと穴吹が笑っている。

「いつでも付き合うよ。また釣りに来るといい」

悠真に話しかけている穴吹を見ていたら、まどかはふいに寂しくなってきた。
あと数ヶ月。年末に診療所は閉じてしまう。

まどかもそれまでは島で働くつもりだが、その後のことを考えるのは避けてきた。

せっかく親しくなれた穴吹夫妻ともお別れしなくてはいけない。
人と出会って、別れて、その繰り返しだとわかっていても、なんだか寂しい気持ちになる。

(東京に帰って、どうしようか……)

かつて働いていた病院からは、人手が足りないのか何度か復帰を打診されていた。
だが戻る気にはなれなかった。
実家の診療所で働くのは甘えているようだし、新しい就職先を探さなくてはいけない。

(のんびりしすぎたかな)

島でのゆっくりした時に流れに、慣れてしまったのかもしれない。

考え事をしながら視線を遠くにやると、波の向こうから白い船が近づいてくるのが見えた。
本州からのフェリーが着く時間だ。

なんとなく船着き場を見ていたら、買い物帰りの主婦や釣り客が次々に降りてくる。
その中に、島では見かけないおしゃれな服装をした女性がいるのに気がついた。

つば広の帽子。サングラス。柔らかな生地なのか、潮風がジレとフレアパンツをなびかせている。
瀬戸内でもリゾート地として有名な島ならともかく、ここでは少々場違いな印象だ。


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