諦めていた恋の続きを始めます
「冗談はよしてくれ」
「わからないわよ。試してみましょう」
急に沙織が体を寄せてきて、唇にキスされた。だが、なんの感情も湧いてこない。
「よせ」
嫌悪感から、思わず引きはがした。
「あら、好きな人でもいるの?」
「君を女性として見たことはない。あくまでも、同期としての関係でしかないはずだ」
きっぱりと断ったが、沙織は納得しなかった。
「医学部時代からの仲じゃないの」
「うわさでしかないだろう」
「だって、あなた私のこと好きだったでしょう?」
どうしてそうなるのか、沙織は悠真は自分に気があると思い込んでいる。
「まさか」
否定したら、沙織はきょとんとした顔をした。
医学部時代は成績優秀だと思っていたが、目の前にいるのは強引で傲慢なだけ。あまりにも未熟な女性だ。
恵まれた生まれだけに、世の中はすべて自分の思うとおりになると信じている。
「じゃあ、その気にしてみせるわ」と笑っている。
悠真がもっとも苦手なタイプだと、この時はっきりわかった。
(とてもじゃないが、付き合いきれない)
沙織とは二度と会うまいと決めた。
だが世の中は思う通りにはいかないものだ。
しばらくして、珍しく父から連絡が入った。
兄の真大が数年ぶりにアメリカから帰ってくるという。
「久しぶりに家族で食事でもしよう」と話す声は弾んでいた。
悠真が父から食事に誘われたのは、初めてのことだった。