ホームラン王子と過ぎ去った青春をもう一度
 ――なんで? 私と?

 自分にとってその発言は何を言われているか認識するのに長い時間を有するほどに想定外の出来事であり、思わず面食らってしまう。

「だから、すげー嬉しい。こうやって、軽口を叩き合える関係になれたの」
「何、言って……」
「好きな女の子とこうやって駄弁るのって、青春じゃん?」

 突然意味不明な話をし始めた彼についていけずに声を震わせると、小出くんの微笑みが深まった。
 まるで、狙った獲物は逃さないとばかりに標的に襲いかかる瞬間を窺う獣のように――人畜無害の王子様という姿からは想像もつかない裏の顔が見え隠れしている。

「ずっと、心残りだったんだよ。俺は幼い頃からホームラン王子って周りに囃し立てられてきた。野球が恋人ってキャラも、別に嫌いなわけじゃなかったんだけどさ? ちゃんと、人間の女の子にだって興味があるわけ」

 彼は私の茶髪をまるで割れ物に触れるような優しい手つきで撫でつけると、愛おしくて堪らないと言わんばかりに瞳を潤ませて私に諭す。
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