ホームラン王子と過ぎ去った青春をもう一度
「青春のやり直しって、そういう……」
「高藤は、やだ? ここでトランペットを吹くの」
「嫌ではないけど……。ブランクがあるし……。まともな演奏は、期待できないよ?」
「それでもいい。俺は、高藤の演奏する音を聞きながらボールを打ちたいんだ」
「仕方ないなぁ……」

 キラキラとまるで子どものように瞳を輝かせてお願いされたら、断りきれない。
 私は渋々トランクケースからトランペットを取り出して組み立て、チューニングを行ったあとに楽器を構えた。

「準備、出来たよ」
「サンキュ。曲のリクエスト、してもいいか?」
「私が吹ける奴ならね」
「俺のヒッティングマーチ」

 ――言うと思った。

 当然プロになってから、打席に入った時に演奏される曲に馴染みはないが――。
 学生時代のものであれば、指先がまだ覚えている。

 普段は数10人が一斉に吹くため、失敗してもある程度なら誤魔化しが利く。
 しかし、今日はたった1人だ。
 一度失敗したら、聞くに耐えない雑音となる。
 だから、いつも以上に緊張でどうかなってしまいそうな気持ちに陥ったが――。
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