ホームラン王子と過ぎ去った青春をもう一度
「高藤! 失敗を恐れんな! 楽しもうぜ!」
小出くんにそう言われてしまったら、怯えてばかりもいられない。
私はコクリと頷くと、勢いよくマウスピースに口をつけて演奏を始めた。
――カキーン。
ピッチングマシーンがボールを放つたびに、彼の豪快なスイングがホームランへと導いていく。
「かっとばせー、おのきよ!」
学生時代は小出と言う名字の選手が2人いたため、演奏時の応援時には名字と名前の前半部分を合体させて呼んでいた。
――この感じ、懐かしいなぁ……。
彼がバットを振るうたびに奏でられる小気味のいい音、早く演奏を終えて帰りたいと思う気持ち。
ただ一つ、違うことがあるとすれば――私たちが制服を脱いで大人になったことくらいだろうか。
あの時は、自分が演奏を止めることになるなんて思いもしなかった。
小出くんはおじいちゃんになるまで、プロ野球選手として活動を続けているんだって本気で思ってた。
なのに――私たちは再びこうして顔を合わせ、同じ会社で働いているだけではなく……。
なぜかデートまで経験してしまったなんて、不思議なものだ。
――うわ、こっわ……。