ホームラン王子と過ぎ去った青春をもう一度
「外回りは女性一人でしちゃ駄目って、社内規定があるだろ? なんで、俺を連れて行ってくれなかったの?」
「そんなの、きっちり守っている人のほうが少ないくらいで……」
「高藤」

 言い訳は聞きたくないとばかりに凄まれたら、口を閉ざすしかない。
 私は渋々、彼に訝しげな視線を向けた。

「社歴としては後輩だけど、俺は同い年の男だ。君を守りながら仕事を教えるのに、もってこいだと思わない?」
「でも小出くんはもう、独り立ちをしていて……」
「社内規定を破るのは、よくないよな?」
「は、はい……」
「わかればよろしい」

 無理やりこちらの同意を引き出した小出くんは、ようやく不穏な空気を霧散させる。
 その後、普段の明るい彼に戻った。

 いいんだか悪いんだか、よくわかんないな……。

 なんとも言えない気持ちでいっぱいになっていると、前方から彼を呼ぶ声が聞こえてきた。

「ホームラン王子ー。内線1番にお電話ですー」
「おー」

 いつの間にか事務員から、名字ではなくあだ名で呼ばれている。

 ――その名前で呼ばれるの、嫌だって言ってたのに……。
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