ホームラン王子と過ぎ去った青春をもう一度
2/甲子園のグラウンドで(高校時代)
 ――あれは、高校3年生の夏のこと。

 このままずっとここにいたら茹でタコになってしまうんじゃないかと感じるほどの暑さを我慢し、数十万はくだらない楽器を痛めて、コンクール終わりの疲れた身体に鞭を打つ。
 甲子園のグランドを前にした私は、なんで応援なんかしなくちゃいけないんだろうと悪態をついていた。

 でも――。

「逆転サヨナラホームランだ!」
「うぉおおお!」

 相手選手のピッチャーが投げた球を打ち返したバッターが、綺麗なフォームで球を打ち返した瞬間――私は考え方を改める羽目になった。

「吹部のみなさん! 応援、ありがとうございました!」

 試合終了の合図とともに、帽子を取った野球少年がこちらに頭を下げる。
 ああ。自分たちの応援も、悪いことばかりじゃないんだ。
 そんなふうに思えたのは、チームメイトに四方八方から抱きしめられて褒めたたえられる、彼のおかげだった。

「やっぱり違うねー」
「何が?」
「野球部のホームラン王子。礼儀正しくて、文武両道で、非の打ち所がない。坊主でさえなければ、私もガチ恋したのに!」
「髪型って、そんなに大事かな……」
「何言ってんの!? 当たり前じゃん!」

 吹部の友人は、ホームラン王子とやらのファンらしい。
 彼女は髪の毛の大切さを力説しながら、私に彼のよさを布教する。
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