ホームラン王子と過ぎ去った青春をもう一度
「ホームラン王子みたいに幼い頃から天才って騒ぎ立てられて、誰が見ても才能溢れる存在になれたら、違ったんだろうけど……」

 どんなに努力をしたところで、私は一般人だ。
 恵まれた環境ですくすくと育って光り輝く有名人の前では、ただの石ころでしかない。
 住んでいる世界が違うとわかっていても、羨むのを止められないのは――。
 やっぱり、このままトランペットを捨てるのが嫌なのかもしれない。

「あの人には、頑張ってほしいよ。私の分まで……」
「じゃあ、その気持ちをホームラン王子に直接ぶつけに行こうよ!」
「なんで? 無理なんだけど」
「えー! 私も一緒に、ついていってあげるからさー!」
「ホームラン王子を至近距離でみたいだけでしょ」
「バレたか……!」

 大した交流もないくせに自分の夢を勝手に託した私は、ホームラン王子の姿を目で追うようになる。
 その気になればいくらだって、言葉を交わせたはずなのに……。
 結局一度も自分から話しかけることはなく、彼はプロ野球界で有名な選手となる。
 そうして手の届かない人になったはずだった――。

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