この恋は報われないはずだった

3 気づいてはいけない思い

「それじゃ、行ってくる。どこか出かける時には渡した合鍵使って施錠して」
「うん、わかった。行ってらっしゃい」

 翌朝。会社に行くお兄ちゃんを玄関前で見送る。私服のラフな格好のお兄ちゃんもかっこいいけど、スーツ姿を着こなすお兄ちゃんもすごくかっこいい。思わず見惚れて緩みそうになる頬を引き締めながら、私は笑顔で挨拶した。

 ふと、お兄ちゃんが何かに気づいたように私を見て微笑む。ん?なんだろう?

「どうしたの?」
「いや、こうして同じ家にいて出かけるときに見送られるの、なんだか懐かしなって思って」
「そうだね、一緒に暮らしてた頃、たまにあったもんね。ふふ、確かに懐かしいかも」

 昔を思い出して思わず笑みがこぼれてしまう。そんな私に、お兄ちゃんは目を細めて嬉しそうに近寄ってきた。

「だろ?それに……」

 それに?

「こうして二人きりだと、なんだか新婚さんみたいだな」
「……は?」
「ブッ、ハハハ。すごい顔してる。それじゃ、今度こそ行ってきます」

 お兄ちゃんは楽しそうに笑って私の頭にぽんぽんと手を軽く置くと、満足そうに玄関から出ていった。え、なに?なんなの!?もしかして、揶揄われた!?

 すごい顔してるって、絶対顔真っ赤になってたよね!?ううう、恥ずかしい!急に新婚だなんて、言うから!

「もう、お兄ちゃんのせいで調子が狂う……」

 私は、ズルズルとその場に崩れ落ちた。



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