残業以上恋未満
3 縮まる距離
「わあ!このたまごチョコかわいい!!」
お昼休み。お昼ご飯を買いにコンビニにやってきた私は、お菓子の新商品コーナーをチェックしていて、たまご型のチョコレートを見つけた。
たまご型のチョコレートの中に、小さなカプセルが入っていて、その中にキャラクターの小さな人形が入っているものだ。
どうやらこのたまごチョコには、猫の人形が入っているらしい。
黒猫に三毛猫、アメリカンショートヘアにマンチカン、色んな種類の猫がパッケージに映っていた。
「うわ、このスコティッシュフォールドかわいい……これ欲しいな」
先日、高松部長が仕事が落ち着いたら猫を飼いたい、と言っていたのを思い出す。
私は、たまごチョコを二つ手に取って、レジに向かった。
いつも通りの残業時間。
私はふーっと大きく息をついて、少し休憩することにした。
よしよし、この調子ならコンペに間に合いそう!よかった!
そう頷きながら、私はデスクの一番下の引出しを開け、それを取り出した。
「じゃじゃーん!お昼に買ったたまごチョコ!」
私はそれを机の上に広げる。
誰もいないフロアだとわかっているからこそ、じゃじゃーんなんてやっているが、誰かがいたら絶対にできない行為である。
「ではさっそく!」
箱からチョコを取り出して、たまご型のチョコを半分に割る。割れたチョコレートは包みに一旦置いておいて、中のカプセルをウェットティッシュで綺麗に拭いた。
そうしてカプセルを捻ると、猫の人形が出てきた。
「やった!スコティッシュフォールドっ!!」
手足が真っ白で耳が少し垂れた猫の人形。なんて可愛さ!これはすごく出来がいい!
私はたまごチョコから出てきた猫の人形をデスクに飾った。
すると。
「また今日は随分と元気だな」
「高松部長!」
部長が半笑いを浮かべながらやってきた。
「楽しそうな残業だな」
あはは……、と私は苦笑いを浮かべる。
「で、今日のお菓子はそれか?」
高松部長は私のデスクで崩れたたまご型のチョコレートに目を向ける。
「たまごチョコです!中に人形が入っているんです」
「コンビニとかでよく見かけるな」
「そうなんです。お菓子とおもちゃが一緒になっている商品ってありきたりではありますが、やっぱりいいものですよね!なにが入っているかわからないおもちゃと、例え目当てのおもちゃが出なくても、絶対に美味しいチョコレート。いい組み合わせです。こういうサプライズ感のあるお菓子もいいですよねぇ~」
私の説明に部長の喉がくくっと音を立てる。
「相変わらずだな、早河は」
高松部長は思ったよりもよく笑う。その笑顔を見るのが私の中で当たり前になってきた。
「昨日は珍しく残業していなかったから、やっと残業するのをやめたのかと思ったのに、今日はまた残業なんだな」
高松部長は残念そうに言う。
この人は本当に他人に残業させたくないんだな。自分の残業はいいくせに。
そう心の中でふふっと笑う。
「昨日は同期とご飯に行ったんです」
「そうだったのか」
「本当は残って作業したかったんですけど、同期がどうしてもって言うもので」
「その同期が正しいな。早河は働き過ぎだ。少しはゆっくりした方がいい」
至極真面目にそんなことを言うので、私は笑ってしまった。
「それは言いっこなしですよ!高松部長も残業してるんだから」
私の言葉に、部長は困ったように笑う。
「あ、そうだ!このたまごチョコ、もう一つあるんです!部長もお一つどうですか?」
「あ、いや、俺は結構だ」
「そうですか。では開けるので、部長が気になる猫を教えてください」
高松部長にたまごチョコのパッケージを見せる。
部長は「そうだな……」と顎に手を当てながら考えている。
「じゃあ、このしましまの……」
「キジトラですね!当たるかなぁ」
簡単に当たるとはもちろん思ってもないけれど、なんとなくこうして高松部長と話すのが楽しくて、もしキジトラの人形が出たとして部長はどんな表情をするのだろうと、考えてしまう。
私、高松部長に相当懐いちゃってるな。
そんなことを思って、苦笑が漏れる。
だってなんだかこの時間は、私にとってすごく穏やかな時間だ。
たまごチョコを割って、中からカプセルを取り出す。そのカプセルを捻って開けると、中からキジトラが出てきた。
「すごい!本当にキジトラが出ました!」
思わず興奮して顔を上げると、高松部長も目を丸くして驚いていた。
「すごいな、本当にキジトラだ」
私はドヤ顔でキジトラの人形を部長に見せ、先程のスコティッシュフォールドの隣に並べた。
そうしてまた顔を上げたとき、なんだか部長が愛しいものでもみるような優しい目をしていることに気が付いた。
なんだかその表情に、私の心臓が不規則に動き出す。
「あの、部長……?」
私と目が合うと、はっとしたように少し照れくさそうにそっぽを向く高松部長。
え、なにその表情……。
胸がどきんと大きく鳴った気がした。
部長の気持ちが知りたくて、私が口を開きかけた瞬間。