残業以上恋未満

 翌日、終業後。
 私はぼうっとデスクの上の二体の猫の人形を見つめていた。
 昨日、高松部長と賑やかに開けたたまごチョコのおもちゃである。
 そのあとにやってきた坂本くんの謎過ぎる行動に、私は首を傾げていた。

 あんなことする人だったっけ……?

 私の頭を撫で、爽やかに去っていく坂本くん。
 私たちは同期で友人で、それ以上でもそれ以下でもない。
 それなのにあんな、頭を撫でるなんて、今までそんなことされたことなかった。

 私に彼氏がいたから遠慮してたとか?可哀想なおひとり様の残業女子にお情けの頭ぽんぽん?

「どっちにしても謎……」
「なにか行き詰っているのか?」

 そんな風にうんうん唸っていると、例のごとく高松部長がやってきた。

「高松部長!」
「珍しいな、早河がこの時間にお菓子も食べずに作業してるなんて」
「私、そんなにお菓子食べてます?」
「うん」

 高松部長が真顔で頷く。
 なんだかそれが面白くて、私は吹き出してしまった。

「作業だってちゃんとしてます!コンペの準備はかなり順調ですし」
「それならなによりだ」

 部長がふわっと穏やかに微笑む。

「そんなことより高松部長、どうして昨日はいきなりいなくなっちゃったんですか?」
「昨日?」
「私の同期が来たときです。部長、それまでここにいたのに急にいなくなっちゃって……」
「ああ、そうだったな……」

 高松部長は眉を下げて、申し訳なさそうに話し出す。

「なにも言わずに出て行ったのは悪かったよ。ただ、……俺は邪魔になると思ってね」
「邪魔……?」

 部長は少し言いにくそうに口を開く。

「なんというか、いい雰囲気だった気がしてな」
「いい雰囲気?え?私と坂本くんが??」

 私が眉間にしわを寄せながら訊くと、部長はぱちくりと驚いた様な表情を見せる。

「違うのか?」
「全然違うと思います!」

 私ははっきり言い切った。
 いい雰囲気って……。私と坂本くんがそんな雰囲気になるはずない。ただの同期だもの。
 私の返答に、高松部長はふっと微笑む。

「そうか、俺の勘違いか……」
「はい、勘違いです!」

 部長の頬がなんだか赤く染まっているように見える。

「高松部長?」
 その顔を私に隠すように、部長はそっぽを向いた。

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