残業以上恋未満
「あ、いやなんだ……。気さくに話す早河を見て、きっと仲の良い間柄だと思ったんだ。俺なんかがいたら邪魔になるんじゃないか、とか考えていたんだが……。……どうやら俺が、二人を見たくなかっただけみたいだ」
「へ…………?」
それってどういう意味?
部長の言葉が上手く理解できずにいると、高松部長ははっきりとこう言った。
「早河が楽しそうに話すのは、俺だけでいいって思ったんだ。……悪い。すごく幼稚だよな」
照れたように頬を掻く高松部長に、私の胸がキュンとした気がする。
なんだこの可愛いひとは!私より年上で、部長職についている方ですよね?なんでこんな可愛いことが言えるのか!
それに部長も、私と話すのは楽しいって思ってくれてるんだ……。
そのことがものすごく嬉しくて、なんだかむず痒かった。
変に浮かれたような気持ちになってしまった私は、また変なことを口走ってしまう。
「心配しなくても、私は、その……部長との方が仲が良いと思っています……!」
すぐには顔を上げることができなかった。
でも、部長がどんな顔をしているのかすごく気になって、私はちらっと部長の顔を覗き見た。
高松部長は心底驚いたとでも言うかのように目を丸くして、それから照れくさそうに口元を抑えていた。
「……そ、そうか……」
「……はい……」
沈黙が下りる。
私たちは互いに照れてしまって、うまく言葉が出てこなかった。
少しして部長がごほんとわざとらしく咳払いをした。
「まぁ、その、……残業もほどほどにしておけよ……」
「はい……」
高松部長はいつものセリフを置いて、フロアを出て行った。
なんだこの気持ち!なんだかすごく、くすぐったい……っ!
部長がいなくなったフロアで、私は一人悶絶する。
だけど、なんだろう……。やっぱりすごく嬉しい。
部長も私と話すこの残業の時間を楽しいと思ってくれていることが、すごく嬉しかった。
「明日も、部長に会えるかな……」
そんなことを思うようになるくらいには、きっと私にとって特別な時間に変わっていた。