残業以上恋未満
4 部長の真実
お盆休みも目前に迫った木曜日。
その日も私はるんるんで残業していた。
昨日、高松部長といつものように話をしていて、コンペの準備も順調なことを話した。
すると高松部長は、
『早河の作る商品、すごく楽しみにしてる。企画が通って、コンビニに並ぶ日が待ち遠しいな』
そう言ってくれたのだ。
私はその言葉がすごく嬉しくて、更に気合が入った。
「よーし!今日も頑張るぞー!」
意気込んだ矢先、「早河」と声が掛かる。
「はい!」
振り返るとそこには、商品開発部の部長である、堂島部長が立っていた。
「あ、堂島部長、お疲れさまです」
「お疲れ」
堂島部長は高松部長と正反対で、強面な少し厳しい人だった。
でもその厳しさのおかげで私は成長できたし、頑張りはしっかり認めてくれる人だから、こうしてコンペに出さないかって声も掛けてくれたんだ。
「どうかされましたか?」
私はやや強張った表情の堂島部長を見上げる。
部長はため息交じりに話し出した。
「早河、お前最近ずっと遅くまで残ってるみたいだな?」
「え?あ、はい」
「コンペの準備か?」
「はい」
私の返答に堂島部長は大きなため息をつく。
「早河。頑張りは認めている。だからこそ、個人での社内コンペに早河を推薦した。だがあまり無理はするな。過労で倒れられても困る」
言い方は少しきつかったけれど、堂島部長も私を気に掛けてくれていることがわかる。
高松部長といい、堂島部長といい、上の人って結構残業に厳しいのね。
そんなのんきなことを考えながら、私は「はい、今日はなるべく早くに上がります!」と返事をする。
堂島部長は頷いて、「そうしてくれ」と私の席を離れた。
「なぁんだ……、名前を呼ばれたから、高松部長かと思っちゃった……」
いつも少し硬い声で声を掛けてくる高松部長。
まだ確かにいつもの時間には早いけれど、高松部長が顔を出してくれたのかな、って思っちゃった。
私、相当部長との時間気に入ってるな……。
一人でくすりと笑っていると、まだ傍にいたらしい堂島部長が、驚いたように私を振り返った。
「早河、今、なんて……?」
「えっ?」
「今、高松、と言ったか?……いや、そんなまさか……」
私のひとり言が聞こえていたらしい堂島部長は、何故か驚いたように私を見ている。
私は照れくさく思いながらも渋々説明する。
「あ、はい……。実はIT部の高松部長からも、残業の件で注意されたことがあって。それからよく、私の様子を見に来てくれていて……」
「ご心配ばかりお掛けしてすみません」と堂島部長に白状すると、部長は何故だか目を見開いて私を見ていた。
「早河、何を言っているんだ……?」
「え……?」
「IT部の現部長は、前野だ」
「え……?」
今度は私が目を見開く番だった。