残業以上恋未満
「抹茶!バームクーヘン!」
これも有名な京都の抹茶店とコンビニのコラボスイーツだ。
もともとお菓子や甘いスイーツが好きで、この会社の商品開発部に入社した。
疲れたときには甘いもの!
こうして誰もいないオフィスでこっそりお菓子を食べるのが、ここ最近の唯一の楽しみだったりする。
企画開発で試食や試飲はもちろんあるわけだけれど、この誰もいないひとりのオフィスで夜遅くにスイーツを食べちゃう、というのがなんともいえない背徳感みたいなものがあるんだよねぇ。
「これ食べて、もうひと踏ん張りしよ!いただきまぁーす!」
大口を開けてバームクーヘンにかぶりつく。
「うんっ!美味しい~!」
さすが京都の有名抹茶店とのコラボ商品!抹茶の味がとっても濃厚。絶妙な甘さ加減でこれはいくらでも食べられちゃう!
私はもう一つバームクーヘンを引出しから取り出すと、同じように大口を開け……たところで、とある男性とばちっと目が合った。
私はそのまま大口を開けて固まる。
その男性はフロアの入口に立っていた。
長身でスタイルがよく、空色のワイシャツは袖口を少し捲り、胸元のボタンは少し開いている。
男性は今にもバームクーヘンにかぶりつかんとする私を見て、一瞬驚いたように目を丸くして、それからふっと笑った。
「もう遅いから、早く帰れよ」
「はい…………」
それだけ言って、男性はフロアから姿を消した。
バームクーヘン片手に大口を開けたままだった私は、その手をゆっくりと下ろした。
「…………見られたっ!?」
今まさにバームクーヘンを口に入れんと大口を開け、もしかしたらよだれすらも垂らしていたかもしれない情けない姿を、おそらく他部署の上司?っぽい方に見られてしまった……。
「……最悪、恥ずかしい……。もう帰ろう……」
深夜にスイーツをドカ食いする姿を見られた私は、あまりに居たたまれなくなって、泣きながらバームクーヘンを口に突っ込むと慌てて帰り支度を始めたのだった。