残業以上恋未満
5 未来に進むためのさよなら
金曜日。お盆休み前、最後の出勤日だ。
お昼休み、私はぼーっと休憩室でお弁当を食べていた。
けれど、どうにも箸が進まない。
もしかしたら今日、高松部長と会うのは最後になるかもしれないんだ。
そう思うと、普段お弁当もそのあとのデザートまでもりもり食べる私の身体も食欲を失って元気がないようだった。
「早河?どうした?」
そこにちょうど、同期の坂本くんがやってきた。
私の前の席に腰を下ろす。
「弁当、全然食ってないじゃん」
「うん、まぁ。なんか食欲なくて」
「仕事でなんかあった?残業続きで疲れてるんじゃないか?」
坂本くんは心配そうに私に声を掛けてくれる。
坂本くんはいつも優しい。同期で仲も良くて、気兼ねなく話せて、一緒にいてとても楽だ。
でも。
やっぱり私の心の支えになっていたのは、高松部長なんだ。
高松部長のおかげで残業の時間が楽しみになって、部長が応援してくれるから、私は仕事を頑張ろうってますます思えたんだ。
この気持ちの行方が、どうなるのかわからない。
けれど、私もちゃんと伝えてみようと思った。
今日が最後になるかもしれない。
私は、ようやく自分の気持ちに向き合う覚悟を決めた。
「ごめん、坂本くん!私、仕事戻る!」
「え?ああ、うん?」
私は慌ててデスクへと戻る。
今日、見てもらわなくちゃ!
私は急いでコンペの資料を仕上げにかかった。