残業以上恋未満
「私は、商品開発部の早河 沙織と言います」
「ああ……、俺はITソリューション事業部部長の高松 奏一朗だ」
部長……!?IT部の部長ってこんなに若い人なんだ……!
見た感じ高松部長は私よりも数個歳上、というくらいな気がする。二十八とか、二十九とか?そんな感じ。
整った顔立ちだし、社内で噂になっていてもおかしくない。私がそういう恋愛系の噂に疎いだけかもしれないけど。
それとIT部の正式名称ってそんなに長かったんだ。
変に感心している場合ではない。
「す、すみません!他部署となかなか関わる機会がなくて……」
「ああ、いや、構わないよ」
高松部長に気を悪くした様子は見られなかった。どころか何故か少し困ったような笑顔を浮かべる。
「?」
不思議に思っていると、高松部長は私の手元を指差した。
「それは、新作のお菓子か?」
私が先程摘まんでいたチョコレートである。
「あ、はい!と言っても私が企画したものじゃなくて先輩方の企画したお菓子です」
商品開発企画部には尊敬できる先輩がたくさんいる。
やっぱりこうして実際に企画に携わったものが売られていると、先輩たちの努力が目に浮かんで私ももっと頑張らなきゃって思うんだ。
「へえ、うまそうだな」
「はい!とっても美味しいですよ!高松部長もひとついかがですか?」
そう言いながら、チョコレートを差し出す。
高松部長はチョコレートを少し見つめてから、「いや、俺はいい」と視線を逸らした。
あれ?なんだか食べたそうにしていたように見えたんだけど、気のせいだったかな?
「で、早河はまだ残業するつもりか?昨日もこの時間まで残ってお菓子食べてただろ?こんな時間にお菓子食べてたら太るぞ。早く帰れよ」
「うぐっ……」
高松部長はそう言うとフロアを出て行く。
高松部長の言う通りだ。こんな時間まで仕事してお菓子食べて、よくないに決まってる。だけど。
「心配してくれるのは有難いけど、一言余計では?」
心の中で頬を膨らませて、私は帰り支度を始めたのだった。