残業以上恋未満


 そんな風に高松部長と残業する日々が続いていたけれど、その日は珍しく早くに上がった。
 というのも。

「沙織遅いぞー!」
「ごめーん!」
「早河遅いから、もう根本なんて三杯目だぞ」

 今日残業を早めに切り上げた理由。

 それは、定期開催される同期飲みのためだった。

 今日は一時間だけ残業して、そのあと会社の近くにある居酒屋にやってきた。

 そこにはすでに同期の根本(ねもと) かなみと坂本 佑二(さかもと ゆうじ)がいた。
 かなみは経理部、坂本くんは営業部に所属している。二人とも私が入社したときから仲良しの同期である。

「なーにー?沙織、また残業?」

 すでにお酒が入っているらしいかなみは、私が隣に座るともたれかかるようにして聞いてきた。

「今日は早くに上がろうと思ったんだよ?でも急に課長から頼まれごとされてさぁ。もっと早くに持ってこいっての」
「そんなの断りなよ!沙織は優しすぎるって!」
「そうもいかないでしょ。あ、私ビールで!」

 ちょうどオーダーを取りに来た店員さんにビールと軽いおつまみを注文する。

「で、早河、最近マジで残業ばっかなの?」

 坂本くんにそう聞かれ、私は頷く。

「まぁね」
「誰かに変わってもらえないのか?この前の飲み、急に早河がドタキャンするから根本が大変だったんだぞ」
「あはは、それはご愁傷様~」

 ちょうどビールが到着して、私は一口ぐびっとあおる。

「好きでやってる仕事だから。私も自分が考えたお菓子がコンビニに並ぶの見たいし!今のところモチベも高いのでかなみの相手は任せたよ、坂本くん」

 私の言葉に「げぇ……」と嫌そうな顔をする坂本くん。

「二人は?最近仕事忙しいの?」
「んー、経理部はそうでもないかも。決算期も終わったし、まぁ通常業務だね」
「営業部もまちまちだなぁ。忙しいときはすげー忙しいけど」
「ま、みんなそんなもんだよね」

 運ばれてきた枝豆やたこわさをつつきながら、各々の業務の話なんかをする。
 五杯目のビールを飲み干したかなみが、ゴンっとジョッキを置いて私に詰め寄った。

< 7 / 22 >

この作品をシェア

pagetop