残業以上恋未満
そんな風に高松部長と残業する日々が続いていたけれど、その日は珍しく早くに上がった。
というのも。
「沙織遅いぞー!」
「ごめーん!」
「早河遅いから、もう根本なんて三杯目だぞ」
今日残業を早めに切り上げた理由。
それは、定期開催される同期飲みのためだった。
今日は一時間だけ残業して、そのあと会社の近くにある居酒屋にやってきた。
そこにはすでに同期の根本 かなみと坂本 佑二がいた。
かなみは経理部、坂本くんは営業部に所属している。二人とも私が入社したときから仲良しの同期である。
「なーにー?沙織、また残業?」
すでにお酒が入っているらしいかなみは、私が隣に座るともたれかかるようにして聞いてきた。
「今日は早くに上がろうと思ったんだよ?でも急に課長から頼まれごとされてさぁ。もっと早くに持ってこいっての」
「そんなの断りなよ!沙織は優しすぎるって!」
「そうもいかないでしょ。あ、私ビールで!」
ちょうどオーダーを取りに来た店員さんにビールと軽いおつまみを注文する。
「で、早河、最近マジで残業ばっかなの?」
坂本くんにそう聞かれ、私は頷く。
「まぁね」
「誰かに変わってもらえないのか?この前の飲み、急に早河がドタキャンするから根本が大変だったんだぞ」
「あはは、それはご愁傷様~」
ちょうどビールが到着して、私は一口ぐびっとあおる。
「好きでやってる仕事だから。私も自分が考えたお菓子がコンビニに並ぶの見たいし!今のところモチベも高いのでかなみの相手は任せたよ、坂本くん」
私の言葉に「げぇ……」と嫌そうな顔をする坂本くん。
「二人は?最近仕事忙しいの?」
「んー、経理部はそうでもないかも。決算期も終わったし、まぁ通常業務だね」
「営業部もまちまちだなぁ。忙しいときはすげー忙しいけど」
「ま、みんなそんなもんだよね」
運ばれてきた枝豆やたこわさをつつきながら、各々の業務の話なんかをする。
五杯目のビールを飲み干したかなみが、ゴンっとジョッキを置いて私に詰め寄った。