残業以上恋未満
「ていうか沙織!彼氏と別れたって本当!?」
「え?どうして知ってるの?私、かなみに話したっけ?」
「そうなのか?」
かなみの言葉に、坂本くんも身を乗り出して聞く体勢をとった。
最近仕事が忙しくて、同期飲みにも参加できていなかった。故にかなみに彼氏と別れた話をする機会がなかったはずなんだけど、どうして知っているんだろう?
かなみは「はぁー」と大きなため息をつく。
「やっぱり別れたんだ!?あいつ、あっという間に新しい彼女作ってるよ!」
「え?」
かなみが私にスマホを見せてくる。
その画面には元カレと、見たことのない派手なギャルのような女の子が写っていた。
そもそも元カレとの出会いはかなみの紹介で、元カレはかなみの大学時代のサークル仲間だったらしい。
「かなみ、まだSNS繋がってるんだ」
かなみは友人が多い。かなりサバサバしていて、その言葉は少しきついときもあるけれどいい姉御って感じで、慕われることのほうが多いのだ。
「いやもうブロックしたくてしたくてたまらないところだったの!私の大事な沙織を放ってわけのわからん女と付き合いやがって!マジでクズ!」
「かなみ、落ち着いて」
「あいつが沙織のこと気になるっていうから渋々紹介してやったのにさっ」
かなみはまた追加できたビールをぐびっと飲み干す。
「かなみ、ありがと。でも私が悪かったの。仕事ばっかりで、放ったらかしにしちゃったから」
事実、元カレはそんなに悪い人じゃなかったと思う。結局私が仕事を優先してしまって、あまりどこかに出掛けた思い出とかはないけれど、残業の多い私をいつも心配していたし、今回のことは完全に私が悪かったと思う。
「今度は絶対に!マジいい男紹介するから!」
「ありがと、かなみ」
「トイレ行ってくる!」と少し憤慨した様子で勢いよく立ち上がったかなみは、ふらふらとお手洗いに向かう。
「かなみ、大丈夫かな。飲みすぎじゃない?」
そう坂本くんに話しを振る。
「根本、早河のことすげー心配してたよ。あいつ早河のこと好きだからさ」
「うん……、わかってる」
かなみの気持ちは私にも十分伝わっている。かなみに心配かけちゃったな、って少し反省した。
「で、マジで仕事が原因で別れたの?」
坂本くんはハイボールに一口口をつけ、私に問う。
「うん、俺との時間無駄とか思ってない?とか言われて」
「マジ?」
「まじ」
坂本くんはなにがそんなにおかしいのか、肩を揺らして笑う。
「そいつ、マジでわかってねぇなぁ」
「え?」
「早河の仕事してる姿、見てるとわかるよ。この仕事がすげー好きで楽しいんだろうなぁって」
「え?坂本くん、いつ見てたの?」
「たまたま商品開発部のフロア行った時、早河がなんか意見出してて、生き生きしてるの見た」
「い、生き生き?」
坂本くんの言葉に、私は目をぱちくりさせる。
「うん、超生き生きしてた。この仕事が大好きで、本気でぶつかってるんだって、俺そのとき思ったよ」
「そ、そう……」
なんとなく照れくさくて、私はビールを一口喉に流し込む。
「そんな早河見ちゃったらさ、仕事より自分を優先してほしいなんて気持ちは湧いてこないよ。いつも仕事に全力で、楽しそうにしてる姿、俺は好きだけどね」
「んぐっ!?」
坂本くんの言葉に、危くたこわさが変なところに入るところだった。
驚いて顔を上げると、坂本くんの耳が少し赤くなっているように見えた。
お酒のせいかな……?
そこにちょうどかなみが戻って来た。