Devil's Night
 
 冷たい目が私を見下ろす。


「けど苦しいのは、前のときと同じだろ?」


――苦しい。こうして息をすることさえ。


「僕を裏切って他の男を愛した罰だよ」


 カイがまた薄く笑う。


「でも、もういちどだけ、僕を選ぶチャンスをあげる」


 そう言ってカイは、傷ついた体で私を抱きしめた。私は脱け殻のようになって、じっとその胸に抱きしめられている。


――ごめんなさい。省吾さん……。


 自分が悪魔の腕に堕ちていくのを感じる。


「僕を受け入れて、あの男を拒絶できるなら、この苦しみから助けてやる」


――カイを受け入れる……。


 心の中で、その言葉と意味を反芻した。


「それができなかったら、またここに逆戻りだ。いいね?」


 体を離したカイが、私の瞳をのぞきこむ。決心できないまま、うなずくしかなかった。


 絶望で白くかすむ意識が、更に薄れていく。ふうっと落ちていくような感覚の中で、天を仰いだ。


 白い大きな月が出ていた……。
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